PS3

PS3の真実 -1

吉田伊織 Iori Yoshida

 PS3の外観はすでに知られているように、家庭用ゲーム機としては大型だ。なだらかなアーチを描く天板に特徴があり、縦置きも可能というのはPS2と同様。ただし、約5kgという重量からして横置きが無難だろう。ディスクドライブがスロットイン式なのはPS2と同じだが、別ものといっていいくらい信号処理能力や機能が向上しているのが大特徴だ。

PS3は文明を牽引する「物体X」

 もし宇宙人が現れて、「地球の文明を知るのに手ごろなものはないか」と問いかけてきたらどうするべきか? 私が接待役をおおせつかるのなら、迷わずPLAYSTATION3=PS3を見せることだろう。スーパーコンピューター並みの演算パワーを誇りながら、それをゲームや映像、音楽再生に使うという無上の贅沢品だからだ。人類がなぜ知恵を絞って遊びに熱中するのかという答えがここにある。 そもそもPS2の時代にも、ゲーム機でありながら軍事用に転用できる可能性があるということから輸出規制をかけようという動きがあったくらいだ。高度な演算能力、動画処理能力を備えているということは、精密な過渡現象を解析しその結果を視覚化するのに有効だからだ。究極兵器の開発に転用しうるという懸念は当然だっただろう。

 そんな文明史を画する「物体X」。怖いほどの性能を備えたPS3は、発売前から各種の媒体で取り上げられ、讃えられ、あるいは批判されてきた。筆者としては、これを使い出すと我を忘れ、終わってからも発展的な使い方や画質、音質の改善法に思いをめぐらして寝付けないありさまだ。PS3は最先端のネットワークコンピューターの資質をも備えているのだから、今PCにできることはもちろん、今はできないことをも実現してくれるのでは、と期待を持たせてくれるのだ。

PS3の真実を追求

 そこで、PS3の真実について取材することにした。 
 こちらの基本的な関心は映像音声機器、とりわけSACDやBD(ブルーレイディスク)の再生機としての能力なので、ソニーの高級オーディオの要として知られる金井隆氏の研究室で取材させていただくことになった。



PS3
移動用ロッドの保持端部の高さ位置を
ネジで調整して、入念なチルト補整をしている

頑丈な鉄製シャーシに取り付けられたソニー製のディスク駆動部。二本のトラバース機構用のロッド。左の精密なヘリカル送り機構にも注目


 まずはHDDが装備されているのが新しい。またコントローラーやその他の機器を接続できるUSBポートが4個装備され、さらに60GBモデルは各種のカードスロットを備えているのも時代を物語る。そしてデジタル映像や音声の出力はHDMI端子を使うようになっているのはホームシアター派としては大歓迎だろう。逆にいうと、HDMIに対応していないと本来の高画質も高音質デジタルマルチチャンネルも味わえないことになる。アナログ映像出力や2ch音声出力のAVマルチケーブル端子や光デジタル端子はあるけれども。

超精密な駆動メカ

 今回はBDやDVD、CDを再生するディスクドライブに注目しよう。これが想像以上に高級な駆動メカなのであり、説明を受ける度に冷や汗が出るほどのものだからだ。
 写真のように1レンズ、2波長のレーザーピックアップを正確にトラッキングさせるヘッド部が異常なほど凝った作りになっている。移動を支えるロッドが2本並んでいるが、これが微妙に傾けてあるのが興味深い。これは装着時のディスクの反りに見合った傾きをあらかじめ付けることでチルトサーボの負担を減らすためだ。これでこそ信頼性や高速応答性が可能になるわけだ。また全体を支える鉄製のシャーシは1.6mm厚で末端を折り曲げ(絞り)加工しているという丈夫なもの。



PS3
 ディスクを回すスピンドルモーターはソニーの高級オーディオ機の伝統であるBSL(ブラシ&スロット・レス)モーターになっている。ありふれた平面型モーターに見えるが、正弦波によるきれいな回転磁界を作って回す方式であり、コギング(回転の段差)がなく、強力なサーボが容易に掛けられる利点がある。それに、ディスクの保持については、精確に芯出しするためのセンタリング機構を採用している。これもきわめて高級な設計だ。
 トラッキングについてはよくあるウォームギア機構やリニアモーター式ではなく、螺旋軸によるヘリカル送り機構になっている。ガタがなく、高速の移動が精密に行える利点がある。またピックアップ部の台座とロッドの接点はメタル軸受けになっていて、ほとんどがプラスチック製という安価なディスクドライブとは別世界の精巧なメカニズムといえる。
カバーを外したところ左が電源部
右がディスクドライブ
BSLモーター大型の平面型BSLモーター
回転軸の頂部にセンタリング用のカプラーが浮き出ている
 ちなみに、スロットイン式のローディングメカはお手軽な印象を受けやすいのだが、実は「音質にとって好ましい」のだという。それは、ディスクを乗せて運ぶトレイ方式だと、再生に関係ない不安定な板が共振して音質を害するからだ。そのため高級オーディオ用では、トレイの制振対策を徹底して物量を注ぐ結果になる。ならば最初から無い方が有利というわけだ。
 こんなに精密機構にする必要があるのかと思うほどだが、「最初だから徹底的に精度を追求した結果」であり、「このディスクドライブは高度な計測器などに転用することも可能なレベル」だという。また通常のプレーヤーよりも機構ががっちりしているので、特に重低音の再生能力が高いのだという。



PS3

SACDの高音質

 ではオーディオ再生機としての実力はどれほどのものだろうか。PS3をSACDプレーヤーとして使い、LPCMのマルチチャンネルに変換、HDMI経由でAVアンプのTA-DA3200ESに送り、再生するという視聴システムで試してみた。
 実は、以前にPS3の完成前のモデルでもこの条件で視聴したことがあったのだが、その際は「ゲーム機なのでSACDをきちんと再生できるだけで立派」、という程度の認識だった。ところが今回はまるで違う印象だ。プーランクのオルガン協奏曲を聴いたのだが、その重低音が凄まじい音圧感で押し出され、広い視聴室をどよもすのには感動するしかない。しかもオーケストラの個々のパートの情報がよく析出され、奥行きのある空間を作っているのだ。なにより部屋の空気が一変する演出力は、たしかに趣味のオーディオの世界の出来事というしかない。これはCDを聴いても同様。迫力も質感も高水準であることが確認できた。
 しかしこれは不思議だ。オーディオの世界では、材質固有の響きが音になって聴こえるということが定説になっているからだ。ならばこのPS3はというと、全体がプラスチックボディーであり打診してもそれらしい軽い響きが返ってくるだけだ。常識的には、「これでオーディオの音がするわけない」だろう。

 たしかにそうであって、視聴したPS3は、金井氏が独自の振動対策を施し、音圧を防ぐための衝立まで設置している。かなり使いこなした状態なので「まとも」な音がしたといえる。ただし実質的にPS3の持つ情報処理能力が秀でているということが決定的だ。
 というのは、SACDのストリーム(DSD信号)をLPCM変換する際にきわめて高水準の処理ができるからだ。そもそも演算中枢のCellは高性能のMPU(Power PC)を中核として高性能浮動小数点演算DSPを7個備えているという怪物的な「ブロードバンド・エンジン」なのである。だから、サンプリング周波数2.8MHzというレートのDSD(ダイレクト・ストリーム・デジタル)信号を、高い精度でリニアPCM信号に変換できる。
 その演算精度の重要性は、出力信号形式を変えてみると納得する。CDはそのままだが、SACDの場合、44.1kHz、88.2kHz、176.4kHzという出力のfs=サンプリング周波数を選択できるのである。そこで88.2kHzと176.4kHzを比べると、あきらかに後者が質感や空間構成力で勝っていることが分かった。


 これは自宅で試しても同様だった。その場合、プリアンプとして使ったのがパイオニアのVSA-AX4ASiなので、88.2kHzまでしか対応していないのだが、実は出力信号の設定を176.4kHzにしたほうが88.2kHzの場合より明らかに音質が勝っているのだ。つまり、送り出しのfsは88.2kHzになるのだが、PS3側の演算を倍のfsで行ったほうが、最初から88.2kHzで行うよりも精確に変換できるというわけだ。
 単品で100万円以上というようなハイエンドオーディオのレベルとはまだ差が大きいのだが、ゲーム機離れした音楽再生装置としての高い能力は隠しようもない。格段に音質、画質が向上する使いこなしについては筆者も研究しているので、いずれ公開しようと思う。(次回はマザーボードや映像系について報告する予定です)

取材に参加した一同右がソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)のソフトウェアプラットフォーム開発部、石塚 健作氏、左が縣秀征氏。後ろ右が同広報部の福岡智氏、後ろ左がソニーの金井隆氏