PS3

PS3の真実 -2

吉田伊織 Iori Yoshida

高度すぎる内容に感動する

 今回はマザーボードに注目する。これはすでにWebで情報が飛び交っているが、あらためて写真でごらんいただきたい。多少PC系の知識のある人ならば、BDドライブ付きの高性能サーバー、また強力な画像処理マシーンといえる濃い内容に唖然とするだろう。
 多数のデバイスの中でひときわ目立つのが、クロックが3.2GHzという演算中枢のCELL、また“RSX”と銘打たれたGPU=グラフィック・プロセッサーだ。基板部品面の写真では、中央右側がCELL「ブロードバンドエンジン」、左側の一番大きなデバイスがRSX「リアリティシンセサイザー」である。
 また右端にはPS2用の演算中枢である“EE+GS”が見える。これは「エモーションエンジン」+「グラフィックシンセサイザー」の略だ。PS2ソフトには専用のデバイスで対処しているわけだ。これはやがてCELLのソフトウェアによるエミュレーションで処理できるようになれば不要になるとのこと。PS1についてはすでにエミュレーションで対応している。CELLの下の大型デバイスは「ゲーム用コントローラー」など各種入出力ポートの信号やバスラインを制御する「コントローラー」。PC用語だと「サウスブリッジ」である。

普通「表」といわれるが、この部品面は実機では下に向いている。写真の上端が本体前面、下が背後になる。
とても家庭用ゲーム機とは思えない高密度のパターンと大型LSIチップに注目
 ちなみに、この基板写真は部品面なので「表」なのだが、実装ではこの面が下向きであり、放熱シールド板がその主要LSIチップに密着して取り付けられている。さらにその放熱シールド板には大型の放熱フィンと大型冷却ファンがぶら下がることになる。いや、むしろ放熱機構の上にマザーボードが乗っかっていると言った方がいいだろう。CELLだけで消費電力最大100W級、全体で最大380Wというから放熱設計が厳重なのは当然だ。
 「表」の写真で入出力端子を見ると、写真上の左端が4個あるUSBポートであり、実機ではこれが前面下部の左端に位置する。ゲーム用コントローラーはここに装着することになる。写真下左側の端子類は実機の背後にあるもので、左から順にAVマルチ、光デジタル、LAN、そしてHDMIの各端子である。



PS3
超高速伝送の問題

 「裏面」はメモリーやコンデンサー類が見えるのみだが、「6層以上」という基板の精密感がうかがえるだろう。注目はCELLの左隣にある4個のDRAMへの配線だ。超高速のアクセスなので、わずかな距離とはいえそれぞれ等距離に配線するのが基本だが、ここでは距離が異なっている。これについては疑問を呈する声もあるのだが、実際にはデータの到達時間をチェックし、時間軸の更正をしながらやりとりしているという。
 これはデジタルオーディオの世界でも言われたことなので覚えている方もおられるだろう。つまり、CD音声のデジタル伝送に際して、1本のケーブルで伝送するよりデータを複数に分けた方がケーブル1本あたりの転送速度が低下して有利なのでは、という話だ。黎明期には色々検討されたようだが、結局マルチライン伝送では各ラインのデータのタイミングを校正するのが難しく、1本のシリアル伝送にまとまった次第。
 ただし、DIR(デジタルデータの受信)以降はデータとクロックを分けるので、そういう形式で伝送した方がケーブルのキャラクターを避けられるということも提唱されたことがある。しかし普及しなかった。こういうわけで、現状ではD/Aコンバーター側からクロックを送り、ジッターを管理するインターロック(双方向制御)方式が高級CDプレーヤーのシリアル伝送やi-LINK伝送で試みられている。

中央右寄り、縦5×横7のチップコンデンサーが並んでいる所がCELLの裏面。左側にDRAMへの配線、右側にRSXへの配線パターンが見える。下側に2個ずつ並んでいる青っぽい部品は高性能コンデンサーの「プロードライザ」。基板の上が本体の背後、下が前面になり、ここで見えている面=パターン面が本体でも上向きに配置される
 横道にそれたが、CDなどとはまるで桁が違う高速のデータをやりとりするというのは、なかなか難しいことなのだと知って欲しい。

「プロードライザ」とは?

 横道ついでにもうひとつ注目したいパーツがある。それは「表」写真ではCELLやRSXの上に2個ずつある“NEC/TOkin”の長方形の部品だ。「裏」写真ではそれぞれのLSIチップの下側にやはり2個ずつ配置されている。これは「プロードライザ」という商品名の一種の貫通コンデンサーだ。

 これは電源ラインに直に挿入してGHz領域でもコンデンサーとして働き、ノイズをバイパスさせることが出来るコンデンサーだ。通常の電解コンデンサーに高周波用コンデンサーを足したものより価格が一桁高いという高級品だが、性能はすこぶる高い。
 「貫通」といったのは、電源ラインをそのまま通す電極が同時にコンデンサーの電極の一部を成しているからだ。こういうと特殊な原理のコンデンサーに思えるが、同軸ケーブルの芯線と外周シールドとの間に静電容量があるのと同じだ。その静電容量分を積極的にコンデンサーとして活用するわけだ。実際には古典的な同軸型ではなく積層コンデンサーの形なので、メーカーでは「貫通型」と区別しているのだろう。



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ソニー流の設計思想

 これに興味を引かれるのは、単に“高級パーツをおしげもなく投入”ということだけではない。最初だから過剰品位というくらいのパーツを使うことは珍しくないだろう。しかしソニーは、40年以上前の製品でもそういうことをやってのけた実例があるのだ。
 それは「ソリッドステート11」と呼ばれたFM/短波/中波の3バンドポータブルラジオTFM-110に見られる。これは1965年に発売されて爆発的にヒットした画期的な製品だ。中学生のころその内部をチェックして、シールドが厳重なこと、特にFMフロントエンド部が真鍮ブロックにスッポリ納まっていることに感動したものだ。ところが、最近になってその電源ラインやAFC(自動周波数調整)ラインの端子部に貫通コンデンサーを使っていることが分かってさらに驚いた次第。写真では、真鍮ブロックの下部右側の3つの端子が貫通コンデンサーである。

1965年に発売されたソニーのラジオ「ソリッドステート11」のFMフロントエンド部。真鍮ケースの中に、高周波増幅、周波数変換の回路ブロックが収まっている。右下の3つの端子が貫通コンデンサーになっている
 これは当時としては、極限性能を要求される計測器や通信機、高級なテレビなどに使われていただろう代物である。それがポータブルラジオの存在価値を一変させた歴史的名機に使われていたのである。厳重なシールドを施しているのだから、こういう高級部品を使うまでもないはずだが、目立たないところに意を注ぐ設計者の意欲が感じられる。こういう作法は、ソニーの最初期のCDプレーヤー、そのアナログフィルター部にも見られる。
 こんな「故事」を持ち出したのは、見てきたようにPS3が過剰品位というほどの作りこみをしているからであり、これはソニーの伝統といっていいだろう。PS3が「赤字覚悟」の価格設定であり、何年先まで利益がどうのという経済ジャーナリズムの批判は知っているが、高級なオーディオやAVの世界を知っている人ならば、まずはこういう高い知力を結集した世界に敬意を表するだろう。

冷却の徹底ぶり

 冷却機構も見所だ。写真でご覧の通り、基板をシールド板でサンドイッチし、CELLとRSXという2つの大型LSIチップ表面に放熱板を密着させるという仕掛け。主要デバイスの表面温度をできるだけ下げようという意図がそのまま形になったわけだ。そして熱を効率よく伝達するヒートパイプを多数張りめぐらした様子は、工芸品に似た造形物を思わせる。ジェットエンジンの配管などもこんな風に入り組んだ曲線を見せていて興趣をさそうものだ。

基板の部品面=「表」を下から挟むシールド板。
この下に放熱部が配置される
基板の「表」の2つのLSIチップに密着させる放熱板、ヒートパイプが張り巡らされていることに注目。大型の冷却ファンがある方が下=本体底部になる
 消費電力については簡易測定してみた。通電すると180W程度、BDを再生すると210W前後。ゲームでもそれほど増えないが、1080pで収録された画像処理が膨大な作業量となるゲームソフトをフルに使うと、公称の最大値に近づくという。使う際には電源のゆとりは確保すべきで、すくなくともTVやプロジェクターの給電系とは区別したタップを確保したいものだ。また背後の通気部分には相当な熱量が放射されるので周囲との間隔を十分確保したい。



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まだまだゆとりのある演算パワー

 最後に、CELLやRSXの能力について少々。CELLはMacにも採用されていたRISC(縮小命令型)MPUであるPOWER PCのコアを搭載。その周辺にパワフルな浮動小数点演算DSPが8個配置された構成だ。ただしDSP部分は実際には7個だけが使われる。
 このDSP部分については、高級な音声デコーダーによく使われていたアナログデバイセスの「SHARCH」の高級なものが7個使われているようなもの、と説明された。その呼称は「スーパー・ハーバード・アーキテクチャー」に由来する。
 これは、DSPのプログラムメモリーとデータメモリーのアクセスを独立化させて高速化を図るというDSPの基本技術を取り入れたもの。また、SIMD(シングルインストラクション・マルチ・データ)方式であり、ひとつの命令で複数の独立した演算部分に独立した作業を同時進行させられる。
 もちろん複数のDSPを使うのだから、メモリー空間を統合して構成したり、ひとつのDSPの演算結果を直接他のDSPが活用できるようになっているはずだ。独立した高性能DSPが複数構成されることで、「スーパーコンピューター並み」の仕事が可能になるわけだ。


 ソニーではまだ他のジャンルへの利用は「検討中」だというが、おそらくは業務用の映像処理エンジンや編集機として適性があるだろう。ネットワークの中核機=サーバとしての活用も期待される。またCELLを共同開発したIBMや東芝からも画期的な応用例が登場するかもしれない。消費電力についてはクロック周波数を下げるとか、DSPを全数使わないなどの工夫で減らすことも考えられる。
 ちなみに、PS3は別のシステムで動かすことも想定していて、実際にPS2と同様、Linuxで動かすことができるようになっている。ただし、MacOSなど大規模で複雑な階層のシステムには対応していない。

PS3の発展性

 ともあれ、PS3自体もまだCELLの能力をフルに発揮しているわけではないことに留意したい。LAN端子やUSB端子経由でソフトウェアをバージョンアップできるようになっているので、性能の向上は色々期待できる。たとえば、DVDの映像の出力形式は目下480p止まりだが、フルハイビジョンの1080i/pにアップコンバートしてBSデジタルハイビジョンに近い高画質を得ることは、さほど困難ではないだろう。なにしろ「映像についてはCELLでやらずにRSXの方で処理してもいい」というほどグラフィックエンジンの演算パワーも強力なのだから。

 もちろんCDの音声をアップコンバートしてHDMIから出力することも十分意義のあることだと思う。その一端は、前回報告したようにSACDのDSD信号をLPCMへ変換しても高音質を確保できるという実例からも推測できる。音声にしても、単なる精密なローパスフィルターではなく、デジタルマッピングの手法で、CDを「最高の音声フォーマットのあるべき波形に変換」することが出来るからだ。いわば音声データを「図形」の領域に置き換えて自在に処理することも可能なのだ。
 それでは「原音」から逸脱するという懸念もあるが、ならば「原音以上」を創造する道があるだろう。映像処理のRSXが「リアリティシンセサイザー」というのも言いえて妙だ。「現実」に固執するのではなく、「現実」の可変幅を極大にし、体験を創造するのがゲーム機の本領だからだ。