| |||
村井 裕弥 |
|||
![]() | |||
|
3月9日(金)、キリ・テ・カナワの日本最終公演を聴くため、サントリーホールへ行った。客席はほぼ満席。客層は、年齢層かなり高め。それも、50代、60代の夫婦者が、やけに多い。それも「目ぼしいオペラの公演は、何が何でもすべてチェック!」みたいな尖がった人たちではない。「わたしら、若いときから、キリはんの出とるステージ、なんべんも見てきたんよ。そやさかい、最後もちゃんと応援せんとあかんなー」みたいな、ほんわかムード。
プログラムは、モーツァルトの《静けさはほほえみ》で始まったが、2曲目までは、案の定声が出ない。エンジンがかかり始めたのは3曲目から。それも、大きな声、高い声が、バンバン出だしたワケではなく、ppが安定し始めた。
すると、さっきまでごくフツーに聞えていた「大きくはなし、小さくもなし」の声の吸引力・説得力が何倍にも増して聞えるから不思議だ。時速130キロの速球しか投げられないピッチャーの超スローカーブが決まり始めたときの快感に似てる? おかげで、CDフォーマットに収まりにくい彼女独特の声の美しさにも気づかされる。ううう。このニュアンスを何と表現すればよいのか。ビロードタッチとかベルベットボイスなんて言葉では、歯が立たんな。大人の女性ならではのつやとウェットネス。過度に走らぬ華やぎ感。倍音にふくまれる無限のニュアンス…。CDフォーマットが、最も不得意とする世界。
あとはもう、アンコール曲《私のお父さん》まで、彼女の魅力に引き摺られっ放し。直球だって、ときには150キロクラスを投げる。たまには、高い声も出す。「もう年なんだから、楽に歌い流せる曲だけ歌って、最後のギャラをイッパイ稼ぎましょう」というような人ではないのだ。(どこの誰とはいわぬが、そういう日本最終公演、多過ぎ!)
| ![]() |
最終曲を、うしろ向きに歌い出したのにもビックリ! 皆さんご存じのように、サントリーホールには背後席がある。「そこに座るお客様にも、自分の声をしっかり聴いてほしい。背中とお尻だけ見せていたのでは、申し訳ない」という気持ちの現われなのだろうが、こういうことをしてくれるメジャー歌手は滅多にいない…。
終演後、ファンたちはあたたかい拍手を贈り続けたが、わざとらしいスタンディングオベーションや握手をねだるための駆け込み花束は、一切なし。「ああ。すべてのコンサートが、こんなだったらなぁ」と、心から思う。
![]() |