村井 裕弥

ガルネリ弦楽四重奏団ほかによるモーツァルト:弦楽五重奏曲全集(3枚組)を聴き終えて、数時間たつが、油絵的な色彩と濃密な香気から、いまだ逃れられずにいる。しかし、あれ、本当にCDの音だったのだろうか。
ようし。さっきから弦ばかり聴いてきたから、次はピアノ・ソロを聴いてみよう。同じ「RCAレッドシール・モーツァルト名盤」の中から、ピーター・ゼルキンが弾くピアノ・ソナタ第14番ほかをかける。67年10月から69年7月にかけての録音。
うわっ!! 冒頭の幻想曲ハ短調KV475でいきなりのげぞる。こういうストレートな音で、モーツァルトを弾く人もいるんだ。へえ(それを欠点ではなく、魅力に聴かせてしまうのが《カイザーサウンド》の力かも)。ほとんどのピアニストは、モダン楽器特有のDレンジを抑え、もっとフォルテピアノっぽく弾くというのに、ピーター・ゼルキンは、そんな慣習、端(はな)から無視。かろやかさ、甘美な香り、ストレスフリーな展開とは、かけ離れた世界を展開していく。「異端のモーツァルト」といえば、真っ先にグレン・グールドのソナタ集が思い浮かぶが、あの演奏は興味深くはあっても、彼が弾くバッハほどには、普遍性を持たない。
ここいらへんで、カイザーサウンド東京試聴室に電話してみる
「あのう。お借りしているデジタルケーブル、絶好調なんですが、これお幾らになるんですか?」
「ああ。《カイザーサウンド》のお値段ですか。税込23万1,000円を予定しています」
に、にじゅうさんまんいっせんえん!!!! こ、これはつらい…。もちろん、世にある30万円クラスの水準ははるかに超えているから「お買い得」ではあるが、貧乏ライターのふところから、23万1,000円ひねり出すのは、至難のワザだ。(つづく)