村井 裕弥

しかし、18:30から東館メインダイニングルームでスポットライトを浴びる荒谷が、なぜ西館のコーヒーショップでも弾くのか。
□ コーヒーショップ店主が荒谷の熱烈ファン
□ 荒谷のことを知っていて、わざわざ聴きに来てくれる熱烈ファン以外の人にも、荒谷の音を聴いてほしい
 どうやらこういうことらしい。
コーヒーショップは、静寂には程遠い環境なので、無論PAを使うことになる。ふだんはBGMを流しているミニコンポのAUX入力に、マイクアンプの出力をつなぐという苦肉の策だが、客席で聞いていると、クオリティうんぬんより生音との位相差が気になって仕方ない。(ミニコンポを背にして、ギターを弾くものだから、生音がまず先に聞え、そのあとをスピーカーの音が追っかけてくる。かといって、スピーカーは前に動かせないし、荒谷もこれ以上はうしろに下がれない)
「うわっ!! こりゃまずいなぁ」と思っていたら、ボクの知らない男性が、いきなりスピーカーを外振りに置き直した。江川三郎先生が昔推奨していた逆オルソンというやつだ。「ええっ!? 何でここで逆オルソンなの?」しかし、その結果聞えてきた音は、さっきまでよりはるかにまし。――そうか。荒谷の背面に置かれたスピーカーを外向きにセットすることで、Lチャンネル、荒谷、Rチャンネルが、とある点を中心に描いた円弧上に位置するようになったんだ。だから、円の中心に点音源を置いたのと同じような響き方になり、不自然さが後退…。
あと1分で演奏開始というときに、そんなことを思いつくなんて凄い…。「あの人、いったい何者?」と思って見ていたら、何とその人もギターを取り出し、荒谷の次に弾き出した。「こんにちは。Sketchと言います。きょうは横浜から来ました」 (つづく)