村井 裕弥

いやぁ。あの「爆音事件」は、今でもきのうのことのように思い出される。信川さんご自身は「そんなの、実態のない伝説(笑)ですよ。そんなデカい音出せるワケないじゃないですか」とおっしゃるが、同行したメンバーが皆口を揃えて「あのときの音は凄かった」と語るのだから、間違いなかろう。
お宅に着くと、美しい奥様とASC会員2名が迎えてくださった。たいそうおいしいお茶が出た。肝心の装置は、家族がつどうリヴィングに、28型横長テレビをはさむ形でセットされていた。スピーカーは、信川さんのシンボル、ヤマハNS−1000M。通称「センモニ」。ただし、上半分に黒いセーム革が貼られていた。
 「これを貼ることで、うるささを抑えることができました」
 なるほど。聴かせていただくと、確かに刺激成分の少ない音だ。音量を上げても、音が耳に突き刺さってくることはない。しかし、正直な話、「もっと積極的に鳴ってほしい」とも思った。
あれから5年。ASC主要メンバーいわく、「この5年間で、最も進化したのは信川さんち」なのだそうだ。信川さんも、会うたび「聴きにきてくださいよ」と言ってくださる。しかし、なかなか信川さんちを訪ねる機会がない。ご近所までは、よく行っているというのに。
そうこうしている内に、9月24日、信川ご夫妻が、東京支部長・今井屋さんとわが家を初訪問。もちろん気合を入れてお迎えしたが、「まだまだこれから」というときに、「じゃ、次は僕の部屋へ行きましょう」と今井屋支部長が提案。全員で、彼のマンションへ移動することになった。
西へと向かう東京メトロの車内で、ボクはひとり落込んでいた。「ショボイ音を聴かせてしまったから、みんな『耳直しに』ということで、今井屋さんちに行くことになったんだ。自分は、まだまだ未熟者…」
あの究極屈辱体験から、まだ2週間しかたっていない。フツーなら、最短1年は顔を合せられないところだが、ええい! 虎穴に入らずんば虎児を得ず。ここはひとつ、恥かきついでに、何かを学ばせてもらおうじゃないか。
 ボクは、そんなことを考えつつ、神戸高速鉄道新開地行に乗っていた。
(つづく)