村井 裕弥

『涙の形』というCDが、レコード・アカデミー賞音楽史部門を受賞した。おなじみ、波多野睦美(メゾソプラノ)&つのだたかし(リュート)のコンビに、エヴリン・タブ(ソプラノ)が加わったリュート伴奏付き女声二重唱集で、ジョン・コペラリオの《逝ける者への涙》全曲(1606年)ほかが収録されている。
「自然な発声と即興性あふれる伸びやかな表現」「押付けがましさゼロなのに、浸透力・説得力があまりに強いこと」に、いつもながら圧倒されてしまう。ソプラノとメゾソプラノの渾然一体となった絡み合い、しっかりあと支えするリュートを聴いているだけで充分楽しめるが、対訳片手に、歌詞を追うと、聞え方がまた違ってくる。
録音の素晴らしさも特筆もの。CD臭い刺激感を感じさせず、わざとらしい高解像度サウンドにも背を向け、それでいて、必要な情報量はしっかり確保。いったい誰が録ってるんだ? ワーナー・ミュージック・ジャパン、エイベックス・クラシックで幾多の名盤を制作。『ステレオ』や『ラジオ技術』で製作記事を執筆されることも多い、あの峰尾昌男さんか。ううん。「さすが」としか言いようがない。
こんなにいい音なんだから、AH−120Kを加えても、あまり変わらんのじゃないか。そう思いつつ、EFFECTつまみを1時に。そして、さっきと同じ曲をかける。――うわっ!! これを1度聴いてしまうと、元に戻れないんじゃないか? 何がどう変わったかというと、
□間接音成分が、俄然増えた。それでいて、ムリヤリ付加した印象はなし。
□歌手たちの語りかけが、説得力をさらに増した。
□鮮度が、飛躍的にアップ。一夜干しが刺身に戻ったような変化だ。 (つづく)
『涙の形 The alchemy of tears 』
ジョン・コペラリオ:連作歌曲集《逝ける者への涙》全曲 SとMsの二重唱
ジョン・ダウランド:パヴァーナ(リュート独奏)
トーマス・カンピオン:歌曲《来たれ晴れやかな日》Ms独唱
ジョン・ダニエル:歌曲《悲しみよ内にとどまれ》S独唱
トーマス・カンピオン:歌曲《嵐に打たれた帆が》Ms独唱
アン・ブリン:歌曲《死よ私を優しく眠らせて》S独唱
エヴリン・タブ(ソプラノ)、波多野睦美(メゾソプラノ)、つのだたかし(リュート)
2005年10月2〜4日 秩父ミューズパークで収録
レコーディングエンジニア:峰尾昌男
パルドンTH5941 \3,045(税込)