村井 裕弥

先日、マッキントッシュ・ジャパン事業方針発表会が都内で開催された。集まったのは、全国の主要オーディオショップ店長クラス、オーディオ誌を初めとする報道関係者(日本経済新聞とかも来ていた)、そしてボクたちオーディオライターだ。
「えっ!? 何それ。マッキントッシュといえば、エレクトリでしょう」と首をひねる方もいらっしゃろうが、株式会社ディーアンドエムホールディングスは、4年も前にマッキントッシュ・ブランドを買収。あとはエレクトリとの間に結ばれていた輸入販売契約が切れるのを待つだけの状態が続いていたのだ。
だから、昨秋のインターナショナルオーディオショウでは、「エレクトリのブースで、マッキントッシュを見るのは、これで最後だな」みたいな声が、あちこちから聞えてきた。評論家諸先生方の中には、「これで、マッキントッシュはどうにかなってしまうのではないか」と憂慮する方までいらした。
何を隠そう、筆者も90年代はマッキントッシュ・ユーザー。C40、C100A、MC1000を愛用していたから、「マッキントッシュらしさ」への愛着はひときわ強い。シャーシにさびが出たり、コンデンサーが液漏れしたりしたとき、誠実かつ迅速に対応してくれたのはエレクトリだったから、契約切れが近づくにつれて、何となく気になってきたぞ。だから、その日はほかの用をムリヤリ蹴飛ばして、発表会会場に向かった。
――しかし、会場のなんとだだっ広いことか。天井もメチャ高。全部で何席あるのかは数え損ねたが、何百単位の人が駆けつけたことだけは間違いない。でっかいビデオカメラも複数台セットされていた。
ボクは、前から3列めに座った。たまたま、前は『ステレオサウンド』の関係者が固まっていた。
 まずは、マッキントッシュの歴史と特質を説明するビデオ(約4分間)の上映。C22、MC275といった歴史的名機が次々登場したのはもちろんだが、「回路基板やトランスを作るにあたっての技術力が、同国他社とは違います」みたいなところも、しっかりアピール!
  • そのあとは、ディーアンドエムホールディングス取締役兼代表執行役社長COOヴィクター・ペイコー氏がおおよそ2分間のあいさつ。「私はCOOではあるが、日本市場に関してはエキスパートとは言えない。オーディオ製品の技術面に関してもエキスパートとは言えない」とやたら謙遜しまくり。マッキントッシュの歴史と伝統を強調したあと、「きょうわざわざおいでいだいたショップの皆さんとの強い連携を」で締めくくった。

村井 裕弥

  • ディーアンドエムホールディングスセールス&マーケティングジャパン執行役プレジデント淺野恭文氏は、「春といえば桜の季節。きょう、この会場は『桜の間』」に引っ掛け、今後開花するであろうマッキントッシュ・ジャパンの大きな可能性について語ったあと、エレクトリへの感謝と良好な関係を強調。また、マッキントッシュ・アンプとベストマッチングなスピーカー・ブランドSnellについても、しっかりアピールしたあ
と、「バブル崩壊後、オーディオ不況も長く続いてきたが、最近になって、ようやく本物志向への回帰が見られる。機械式時計や高級乗用車のように、オーディオも今後大いに盛り返していくだろう。当社も、正真正銘の高級ブランド、マッキントッシュを販売していくことで、微力ながらそのお役に立ちたい。文化に貢献していきたい」このあたりで、場内の拍手、いっそう高まる。
  • マッキントッシュ・ラボラトリー・プレジデント、チャールズ・ランドール氏は「60年間の伝統」と「日本が重要な市場であったこと」を強調。そして「販売を他社にお願いするのではなく、自らマッキントッシュ・ジャパンという会社を興すことで、より高効率な仕事が可能になり、より革新的な製品をお届けすることができる」と力説。「私は、この22年間、アンプの設計に取組んできたが、この充実した時が、これからの30年間も続くものと信じている」
  • ラストは、マッキントッシュ・ジャパン代表取締役、稗田浩氏。「オーディオ界全体が不況であるように言われるが、激減しているのは、いわゆるセットステレオであって、単体コンポーネントの売上げカーブは、数年前に底を打ち、今や微増に転じている。どこのメーカーさんも、団塊世代に照準を絞っているようだが、退職金で製品を買ってもらって、それでおしまいでは、オーディオファンは増えない。私たちは、次世代の人たちに
オーディオファンになっていただきたいんです。すぐ、製品を買ってくれなくてもいい。『いつかはマッキントッシュ』と思っていただければ。音楽好きの人を相手にアンケート調査をしてみたところ、半数以上の人たちが、マッキントッシュの名を知らない。もちろん、音も聴いたことのない。しかし、『機会があれば聴いてみたいですか』と尋ねると、7割以上の方が『聴いてみたい』と答えるんです。私たちは、こういう方々の声に応えなければいけない。ただし、販路を滅多やたら広げればよいというものではない。低価格路線で多くの人の手にというのも、急速なAV化もそぐわない。マッキントッシュ創業以来のポリシー『最高の品質とサービス』をモットーに、クオリティ・プロダクツ、クオリティ・セールス、クオリティ・サービスを実践していく必要がある。要するに、マッキントッシュファンの育成が、私たちの課題なのです」

村井 裕弥

そして、「この3月までエレクトリが取り扱っていたすべてのマッキントッシュ製品を、これからも同価格で販売していく」と発表。ただし、マッキントッシュ・ジャパン設立記念限定モデルMA6900G(76万円・税別)を新たに発売するとのこと。
質疑応答の時間には、こんな質問が飛んだ。
Q:販売目標の、具体的な数字を教えてください。
A:ハイファイコンポーネント界全体の10パーセントをめざして
います。
Q:すでにお持ちのブランド、デノン、マランツとの住み分け
は、どのようになるのでしょう?
A:マッキントッシュは頂点です。企業として、複数のブランド
を有するのは難しいことでもあるのですが、私たちは、マッ
キントッシュのブランド性にこだわりたい。別の言い方をす
れば、効率より大切なものがあるということですね(ここで
拍手)。それはもちろん、エンジニアの熱意によるところが
大きいワケですが、私たちは、何があろうとエンジニアのパ
ッションを犠牲にしない。(この直後、また嵐のような拍
手!)
Q:過去60年間の歴史があるということは、初期製品の修理など
がたいへんだと思うのですが、たとえば管球式アンプなどの
修理部品は大丈夫なんでしょうか?
A:ご安心ください。古い製品でも修理可能です。日本の修理ス
タッフをニューヨーク州ビンガムトンに招いて、しっかり研
修させています。どうしても日本で直せない製品が出てきた
場合は、ビンガムトンで修理します。
Q:マッキントッシュ・ジャパン設立記念限定モデルMA690
0Gは、どこで製造されているのでしょう?
A:他のマッキントッシュ製品と同じように、ビンガムトンで作
っています。人件費の安いところで作らせるようなことは、
当社の場合、ありえません。

村井 裕弥

  • そのあとは、指揮者の大友直人氏が登場。「世界中さがしても、東京ほどクラシック・コンサートの多い都市はない。100人規模のオーケストラが8つも存在するのも東京だけ。私が指揮する東京交響楽団は、年に180回のコンサートをおこなう。それに加えて、リハーサルもしていますから、本当にフル稼働です。もちろん、それは『チケットを買って、会場に足を運んでくださるお客様』あってのことなのだけれど、『心の底から音楽を楽
しんでいらっしゃるお客様』は、案外少ないのではないか。音楽に、本来、1等賞・2等賞はありえない。どんな下手な奏者の演奏でも、それがベートーヴェンの曲であれば、楽しめるはず。要するに『何を聴きに行くか』ということなんですね。この『きょうは、何を聴きに行こうかな』という気持ちの持ち方1つで、もっともっと感動できるのではと思うのです。
そもそも、音楽は『神秘的としか呼びようのない魂の伝達』『心から心へ、情熱がじかに伝わっていくもの』『一種の波長』なんですね。だから、『音楽に、哲学を持つエンジニア』に、オーディオ製品を作っていただきたい。先ほど、『東京は、世界一クラシック・コンサートの多い都市』と申し上げましたが、地方はそのまったく逆です。ですから、地方にお住まいの音楽ファンは、どうしてもオーディオ依存度が高くなる。ですから、先ほど申し上げたようなことが伝えられる装置の開発が、とても重要だと思うのです。きょうは、最高の装置で、私のCDをかけてくださるとのことですが、『本当の演奏よりいい演奏』に聞えるような装置であると嬉しいです」
そして、かかったCDはバルトーク:弦、打、チェスタのための音楽(IDC-6071)。大友氏は、それを聴いて、どのような感想を持たれたのだろう。そのあと鈴木勲『ブロウ・アップ』(スリーブラインドマイス)、レイ・チャールズとウィリー・ネルソンの共演盤がかかり、発表会はお開きとなった。