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[オーディオ 一喜一憂」で健筆を振るわれている高橋和正さんは私の尊敬するオーディオ文化人の一人である。風のように自然な低音再生を目指すMFBシステムの研究から鋭い音楽評まで独自の視点からの発言ぶりはご承知のとおりである。なにやらメーカーとの関係から果たして「評論家」と呼べるかどうか疑わしいオーディオジャーナリストたちが闊歩する中、真っ当な書きっぷりは大変貴重なものと思っている。
ところが、そんな高橋さんとどうも相容れないのが「マルチシステム」の評価だ。彼はそちらの方面でも一流だから私がとやかく言えば、"システム構築が未熟のゆえさ”と一喝されてしまうのはもう火を見るより明らかだ。以前拙宅のオーディオルームに取材にみえた際も床を這いまわるケーブルをジロリと睨んだものだから、震え上がった私はあわててビールを振る舞い酔っぱらわせて誤魔化したのだ。
でも駄目なんです、あれは。どうも後ろからの音の波を感じるのが。何事にも前を向いて生きているせいかもしれない。女性だって後ろ姿に興味がないし、後ろから何か来るとついうろたえてしまうのだ。そもそも従来の2チャンネルですら満足に鳴らせていないし、それとの格闘だってまだまだ続けなければならないわけで、きっとそのまま墓まで行ってしまうんだろうなあ。
で、何故「シネ天」にこの話題を持ち出したかと言えば別にネタ切れのせいではなく、ビジュアルの世界にも立体化の波が押し寄せ「3D」の文字が最近やたらと印刷物上に躍るようになったからだ。富士フィルムからは1台で立体写真が撮影できる世界初のコンパクトデジタルカメラが8月に発売されると発表されたし(7月22日)、世は3Dブームの様相を呈してきた感がある。長期化する不況の中エコの後はこれ! とばかり猫も杓子も3Dへと言うわけだ。
映画の世界といえば音のほうではサラウンドが実用化され、その進歩は目を見張るものがあるけれど映像の立体化は過去に何度か実験的な試みはされていたがどうもメジャーな動きにならなかった。さあいよいよ3D化がほんまものになるか興味深々のメイケイである。
メ)今夏の映画界は3D作品で話題沸騰だね。
芦)どうでしょう。そんなに当たりますかね。 日本では邦画は元気ですが、洋画の興収は落ち込んでいますから、 まあ窮余の策と言う感じがしないでもないですが。
メ)作品だけでなく専門の劇場ができるというけど。
芦)・全米のメジャー作品の不振ぶりは報じられている通りで、各地の 映画祭でもアジアやイスラム圏の映画が賞を総なめにしています。
メ)起死回生を狙っているというけど何となく小手先と言う気がしないでもない。
芦)CGを使いまくった中身のないアクション大作ばっかり作ってきた姿勢を改めない限りハリウッドも衰退するばかりだと思いますが。
メ)そうだねえ。君は覚えていないかもしれないけどハリウッドは興行がヤバくなるたびにこの手を持ち出すんだよ。今から半世紀前にもテレビの登場にあおられて、いくつかやった過去があってね。
芦)私はナマで見たことはありませんが成功しなかったらしいですね。
メ)あの頃はストレートに”飛び出す映画”と言ってたけれど間違いなく覚えている作品は「フェーザー河の襲撃」(’53)。ガイ・マディスンと「サイコ」でシャワー中に殺されちゃうジャネット・リーを探し回る妹役をやったヴェラ・マイルズが共演した西部劇だ。
芦)題名すら聞いたことありませんよ。
メ)少なくとも半世紀はたっているからね。無理もないさ。勿論お話は覚えていないけどアパッチが放った矢がこっちに向かって飛んでくるんでさっとよけたりしたのを覚えている。
芦)3Dの効果を狙ったんでしょうね。
メ)そのほかにもデイビー・クロケットみたいなのが登場する開拓期のアメリカを描いた変形西部劇の「渡るべき多くの河」(’55)。これはビクター・マーチュアが主演じゃなかったかな。まだ”エリナ”と表記していたエリノア・パーカーが美しかった。唇の超厚ぼったいマーチュアはどんな作品でも野獣派と言う感じだったからまさに”美女と野獣”の共演だった。
芦)野獣派といえばアンソニー・クインとためですね。
メ)彼の方はジュリエッタ・マシーナと共演して「道」で演技派としても男をあげたじゃない。
芦)マーチュアは野獣派のままで終わっちゃいましたね。
メ)3Dの西部劇と言えばウイリアム・ホールデン主演でジョン・スタージェス監督初期の大傑作西部劇「ブラボー砦の脱出」(’53)も3Dという触れ込みだったけれど私が見たのは普通の映像作品だった。日本国内で公開されたものはみんなそうじゃないかなあ。でもやっぱり円陣を組んだ騎兵隊に雨あられと矢が降り注ぐシーンがあったから間違いなく元は3D作品だったんだろうなあ。
芦)私はどの作品も見ていないので確かなことをいえませんが、あまり話題にならなかったので普通の映像版を輸入していたんでしょうネ。
メ)うん。モノの本によるとあちらでは3Dと言われていながら日本では普通の映像だった作品が少なからずあったようだよ。一番覚えているのは「グラマー西部を荒らす」(’61)というゾクゾクするようなタイトルの映画だ。飛び出してくれれば大嬉しなのに。(芦の調査でスゴ〜いことが判明した! この作品の監督はなんと有名になる前のフランシス・フォード・コッポラだった! 知らなんだなあ〜!)
芦)今日はまじめかと思ったらやっぱりそこへ行くんだ! 確か色眼鏡のようなものをかけて見たんでしたね。
メ)そのまま見るとモノの輪郭が幾重かに見えて色がついてるんだよ。やっぱり煩わしかったネ。
芦)それが流行らなかった原因でしょうか?
メ)眼鏡をかけるとAVのモザイクが消えるというのもあったけどあれもいつまでも続かなかっだろう?
芦)やっぱりだなあ、品がないのは。
メ)眼鏡をかけるというのはわずらわしいから駄目なんだよ。
芦)しかしこの時期3D映画と言ったら一番大事なものを忘れていると思うんですが!!
メ)おおっ!? 珍しく強烈な自己主張!
芦)ディズニーランドでやってた「キャプテンEO」(’86)
メ)何それ?
芦)エエッ? 知らないの? あんなに革命的なものを!
メ)知らへんなあ。ディズニーランドのものなんか。
芦)ちゃんと劇場まであって。超話題だったのに。マイケル・ジャクソンの映画ですよ。
メ)ふーん。知らなんだあ。
芦)勉強不足だなあ。ルーカスとコッポラが作った話題作なのに。マイケルがヒユ〜って空を飛ぶんです。
メ)いつの頃よ?
芦)20年くらい前ですか。
メ)と言えば君はもう30歳を超えてただろう?な〜んでそないなもん知っとるんや?
芦)離婚後初めてデートした時に行ったんです。
メ)いいトシこいてディズニーランドねえ。そりゃうまくまいかんわなあ。
芦)あんたに言われたくはありませんよ。それはそうと今回も眼鏡をかけるという仕組みのようですから当たりますかねえ。今回はアニメ作品中心でお子様は喜ぶかもしれませんが。
メ)そもそも立体ってどうなんだろうねえ。テレビでも一時チャレンジしたことがあってね。やはり20年前くらいかなぁ。私の関係していた局でもやったことがある。ゴリラがブランコに乗ってる映像。自分のすぐ前にまでゴジラがくるの。
芦)なんだか微笑ましいですねえ。
メ)数年前にサンヨーが立体テレビを売り出して眼鏡をかけなくても映像が立体的に見えるの。美しいアルプスの空撮映像を店頭デモで流していたのを覚えているけど売れなかったようだ。
芦)結局作品次第ということでしょうねえ。
メ)空間に映像が映るってのは昔から壁掛けテレビと並んで未来社会の象徴的なもの
だったけど。
壁掛けの方はめでたく実現したけどねえ。トム・クルーズの「マイノリティー・レポート」では亡くなった奥さんの映像を空中に再生させて楽しい日々を回想するシーンがあった。
芦)でも、血だらけの死体があったり、ワニやピラニアがうようよのアマゾン川の中に放り込まれるシーンだったりしたら勘弁ですね。
 インディ・ジョーンズメ)「レイダース」が擬似3D化されたら凄いね。冒頭のシーンね。洞窟の中を転がってくるでっかい石をよけなきゃならん!
芦)3作目ではリバー・フェニックスがヘビがうじゃうじゃな貨車の中に落っこちるシーンがあったし。
メ)”3D化したらもう一度見たいこの一本”と言ったら?
芦)「ワイルド・バンチ」ですね。あれ以外ありません。
メ)へ〜、あの銃撃戦の中に身を置きたいってかあ。変わってるなあ。俺は絶対「エイリアン」。あまりの恐さに発狂しちゃうかも。
芦)あんただって変ってますよ。怖がりで夜電気つけっ放しで寝ているくせに。でも確かにゾンビものとか、ホラー映画はいいでしょうねえ。効果たっぷりですね。
 エイリアンメ)豪華料理を食べ尽くして死んでいくフランス映画があったじゃない。あれもたまらんだろうな。
芦)「最後の晩餐」(’73)ですね。
メ)そう。マストロヤンニにウーゴ・トニャツィ、ミシェル・ピッコリ、それにフィリップ・ノワレという超嬉しい芸達者たちが顔を揃えた作品。臭いをつける技術はもう実用化されているようだし。
芦)すきっ腹で見たら堪らないでしょうね。
メ)でも俺はやっぱり”おっぱい先生”が横で寝ていたら超嬉しい。高橋さあ〜ん! 音も映像も立体化に賛成で〜す!
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